趣味

国立成育医療研究センター 消化器科 臨床心理士 平野友梨 先生

IBDは再燃や再発をくり返しやすいことから、患者さんの生活や心理面への影響が大きい疾患といえます。そこで、主に若いIBD患者さんを対象に、臨床心理士としてカウンセリングや心理的援助を行っている平野先生に“こころの専門家”の立場から、IBD患者さんが生活をよりよく過ごすためのアドバイスや、おすすめの趣味などについてお話を伺いました。

言いにくいことでも、
気軽に何でも話してほしい

国立成育医療研究センター 消化器科 臨床心理士 平野友梨 先生

ーなにか趣味を持ちたいと思っています。おすすめの趣味はありますか。

適度な運動はおすすめです。IBD発症後も運動系の部活動を続けている患者さんはたくさんいますし、大人の場合はスポーツジムに通ったり、ジョギングや散歩をしたりするのも良いと思います。また、手芸や塗り絵、アクアリウム、ガーデニングなど、毎日少しずつできるようなものや生産性のあるもの、達成感を味わえる趣味もおすすめします。音楽やアロマテラピーなど一息つけるような趣味や、映画や旅行など「ごほうび」になるようなものもいいと思います。IBDの再燃の一因であるストレスをためないためにも、気分転換ができる趣味があるといいですね。自分の好きなことをすると楽しかったり、体調が悪いときでも夢中になれたりするので、何か好きなことを見つけて続けてほしいです。

ー趣味のことも、臨床心理士に相談していいのですか。

もちろんです。好きな趣味があるけどどう続けたらいいか、どんな趣味を持ったらいいかなどの相談も受けることもあります。病気になる前から続けていた趣味があったけれど、病気になってから続けられるか自信が持てないという患者さんもいるかもしれません。そんな時には相談してほしいと思います。工夫をすれば続けられるかもしれないので、一緒に考えていきましょう。患者さんによっては医師や看護師には言いにくい、気を使って言えないこともあると思うので、そういったところを話していただきたいと思います。例えば「医師からは手術をすすめられているが、本当は受けたくない」ですとか、「ステロイドの使用をすすめられたが、成長障害が心配なので使いたくない」といった治療の悩みを相談する患者さんもいます。また、学校や生活に関する悩みや、保護者にも打ち明けられない悩みを相談される患者さんもいます。このような場合は、まず言えない気持ちをくみ取ってじっくりと話を聞き、「この部分は話してもいいですか」と了承を得てから、他の医療スタッフと情報を共有しています。

ーそもそも、臨床心理士とはどういう仕事ですか。IBDとはどのように関わっていますか。

臨床心理士は、人間の“こころ”の問題に取り組む専門家で、医療や教育、産業、司法など多くの分野で活躍しています。主な仕事はカウンセリングや心理的なアセスメント(心理テストなどを用いて、患者さんの状態を知ること)を行っています。医療の分野では病気によって生じる悩み、家族の悩み、仕事の問題、友人関係などについて、心理的な視点を持って話を聞き、その人が自分らしく人生を歩んでいくことを支援していきます。ときには、認知行動療法や家族療法、精神分析療法などいろいろな心理療法を用いて患者さんにアプローチすることで病気とうまく付き合い、自分らしく生きていくことを模索していきます。
現在は、主に小児のIBD患者さんやその保護者を対象に、IBDを発症したことに伴う心理的な問題へアプローチを行っています。また、医師、看護師、栄養士、薬剤師とチームを作って、月1回のカンファレンス(検討会)を実施して、それぞれがIBD診療の問題点を持ち寄って解決法を検討したり、患者さんの状況を共有して、より良い治療法とは何かを一緒に考えたりしています。

ー主治医への不満があるのですが

お話をしていただいてかまいません。なかには、「あの先生にこんなふうに言われたからイヤ」と訴える患者さんもいます。その場合、必要であれば医師にやんわりと伝えます。隠れた患者さんの思いを知ることによって、医師も「この点をもう少し伝えないといけない」「この点は配慮しなければならない」などと気付くことも多いからです。臨床心理士には医療者と患者さん、その家族とをつなぐ役割もあるので、相互にうまくコミュニケーションが取れるように気を配っています。

国立成育医療研究センター 消化器科 臨床心理士 平野友梨 先生

ー通っている病院には臨床心理士がいません。相談したいことがある場合は、どうすればいいですか。

精神的に不安なことがある場合は、主治医に相談してみましょう。カウンセリングを受けたいと伝えると、心療内科や臨床心理士などを紹介してくれます。直接、患者さんが心療内科などを受診してもかまいませんが、なかなか難しいでしょうから、まずは主治医に話すことをおすすめします。また、看護師など、周りに話しやすい相手を作っておくことも大事です。
カウンセリングを受けたいと思う気持ちは、心のSOSサインです。IBDの症状だけでなく、眠れなかったり、好きなことに興味が持てなくなってしまったりということがあれば、すぐに相談してほしいと思います。相談内容はささいなことでもかまいません。日常生活で困ったこと、会社や友達に言われてショックを受けたこと、就職や進学など将来のこと、夫婦関係や親子関係など、どのようなことでも相談してください。

ーIBDを発症し、不安を抱えている患者さんにはどのように対応していますか。

特に若い患者さんの場合、周りのみんなと同じでありたいと思う気持ちが強いです。IBDになったことで、例えば部活動もやめないといけない、食生活も変えないといけないとなると、悩んだり劣等感を抱いたりします。さらに症状が出るのが不安で出かけるのがおっくうになったり、いろいろなことを諦めてしまったりする患者さんもいます。
IBDの患者さんには頑張り屋さんが多く、完璧主義になってしまいがちです。食事療法にも一生懸命に取り組んで、神経質になることも多いので、「0か100か」という考え方ではなく、その中間地点、ほどほどのゾーンを一緒に探っていくようにしています。また、IBDは慢性疾患であるため、病気を治す代わりにうまくコントロールしていくことが望まれます。ストレスに対処する力や日常生活を乗り越える力を養っていくことや、患者さんの自主性や自発性を引き出していくような関わりを大切にしています。
治療過程の中で患者さんや家族は多くの感情を抱きます。患者さんや家族に寄り添い、話し合いを重ねることで問題や気持ちが整理され、問題と直面化できるようになります。そのようなアプローチを通して、患者さんと家族がIBDと向き合う過程を支えています。

生活をよりよく過ごすために

国立成育医療研究センター 消化器科 臨床心理士 平野友梨 先生

ーIBDになった場合、どういう状態になることを目標にするといいですか。

IBDであることを自分の中に取り込み日常生活を送れるようになること、自分らしく生きていけるようになることが目標ではないかと考えています。
若いIBD患者さんでは、「友達と同じことができるようになること」を目指そうとする方が多いのですが、給食で同じものが食べられなかったり、学校行事が近いのに入院しないといけなかったりして、目標の達成が難しいことがあります。最終的には、患者さんが自分らしく生きていけるようになれば、それでいいのではないでしょうか。
どの患者さんにも、その患者さんにしかない「強み」があるので、そこを後押ししてあげたり、言葉にして伝えたりしています。自分の強みに、患者さん自身が気づいていないこともあるので、それを伝えて、自信を回復する手助けをするのも臨床心理士の役割だと思っています。また、IBDは慢性疾患で病気を治す代わりにうまくコントロールしていくことが望まれます。ストレスに対処する力や日常生活を乗り越える力を養っていくことや、患者さんの自主性や自発性を引き出していく関わりを大切にしています。
治療過程の中で患者さんや家族は多くの感情を抱きます。患者さんや家族に寄り添い、話すことで問題や気持ちが整理され、問題と直面化できるようになります。そのようなアプローチを通して、患者さんと家族がIBDと向き合う過程を支えています。

ー授業中、トイレに行きたくてもなかなか言い出せません。どうすればいいでしょうか。

専用のカードを作って、そのカードを見せればトイレに行ってもいいというふうに、あらかじめ学校との間で決めておくなどの工夫が考えられます。また、教室の出口に近くて、授業中に外に出ても目立たない席にしてもらうのも有効です。場合によっては、職員用のウォシュレットのついているトイレの使用許可をもらっておくのもいいでしょう。
こうした要望を、どのように学校の先生に伝えればよいかも臨床心理士はアドバイスしています。

ー学校で周りの友達に、IBDのことを知られたくありません。

確かに、周囲に病気について話すことは勇気のいることと思います。隠したいという人もいれば、ざっくばらんに周囲の人に話している患者さんもいます。学校で言う必要がなければ言わなくていいと思います。しかし、学校を休みがちで周囲の理解を得る必要があれば、病気について知ってもらうことが自分のためになることもありますし、周囲の理解を得ることもIBDと歩んでいくための必要な工夫になり得ることもあります。IBD患者さんたちが周囲とうまく付き合うための工夫を一緒に考えることも臨床心理士の仕事のひとつと考えています。例えば給食で違うものを食べていたり、成分栄養剤を飲んでいたりすると、友達に「どうして」と訊かれるかもしれません。その場合は、「おなかがちょっと弱い」とか「いま飲んでいるのは、おなかにやさしいものなんだ」とか、少しぼやかして答えるようアドバイスしています。そうすると多くの人は「ふーん、そうなんだ」と納得してくれるようです。また、成分栄養剤は、水筒やペットボトルに入れ換えておけば、周囲の人には中身が分かりにくくなります。学校で薬を飲みたくない場合は、昼間に服薬しなくても済むようにできないか薬剤師に相談するようにすすめています。

ー私がIBDになったことを親が悲しんでいる姿が気になって、つらいことがあっても親に相談することができません。

「お母さんとお父さんが悲しんでいる姿を見たくないから、つらいことがあっても言いたくない」「両親の前では元気にふるまっていたい」という患者さんは少なくありません。
また、「自分たちのせいで子どもがIBDになったのではないか」と罪悪感を持っている保護者の場合には、特に、お母さんが過干渉になってしまうケースが多くみられます。お母さん自身が不安な気持ちを持っていて、それゆえに、つい口を出してしまうのだと思います。その場合には、不安な気持ちをくんだうえで「あまり言い過ぎないようにしましょう」とアドバイスしています。一方で、IBD患者さんにもお母さんの気持ちを代弁して伝えます。
このように、IBD治療に関わるうえでは患者さんだけでなく、ご家族へのアプローチやカウンセリングの必要性も感じています。

自分にしかできない何かがあるはず

国立成育医療研究センター 消化器科 臨床心理士 平野友梨 先生

ーIBD患者さんへのメッセージをお願いします。

患者さんには、「IBDだから」と自信をなくしたり諦めたりしないで、いろいろな経験をしてほしいです。特に、子ども時代にしかできない経験がたくさんあります。初めからできないと決め付けず、まずは試してみてください。どうしたらできるかを、周りの人と一緒に考える。ときには、できないことを受け止めることも大事ですし、自分にしかできない、違う何かを見つけることも必要だと思います。
IBD患者さんに限らず、どんな人でも多かれ少なかれ悩みを持っているものです。ですから、ひとりで抱え込まないで、誰かに話す勇気を持って、前向きに人生を進んでほしいと思います。

国立成育医療研究センター 消化器科 臨床心理士 平野友梨 先生

平野友梨(ヒラノ ユリ)

国立成育医療研究センター 消化器科 臨床心理士

2011年3月に明治学院大学大学院博士前期課程心理学研究科を修了。在籍時は家族心理学、家族療法を中心に学ぶ。大学院修了後は、大学病院の精神科や総合病院など医療領域で身体疾患患者に対する心理的ケアを中心に活動する。2013年より成育医療研究センター消化器科へ入職し、現在に至る。
専門である家族療法をベースとした心理療法を医療領域で活かすことを希望し、大学病院や総合病院でがん、糖尿病などの慢性疾患やターミナルケア(終末期医療)、NICU(新生児集中治療室)、小児疾患などの患者さんやご家族へのケアに携わる。成育医療研究センター消化器科へ入職後は小児炎症性腸疾患患者、およびそのご家族へ心理的ケアを行っている。

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