「ワークシックバランス」とは、病気があっても自分らしくはたらくことができる世の中の実現を目指して、「IBDとはたらくプロジェクト」が発信している考え方です。「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2021」では、『すべての人が自分らしく働く社会へ〜「ワークシックバランス」を考える〜』というテーマで11月12日(金)にトークセッションを開催しました。

IBD(Inflammatory Bowel Disease:炎症性腸疾患)とは
IBD (Inflammatory Bowel Disease:炎症性腸疾患)は、主にクローン病と潰瘍性大腸炎を指し、未だに原因が特定されていない国の指定難病です。小腸や大腸の粘膜に慢性の炎症を引き起こし、長期に渡って再燃と寛解を繰り返します。患者数は世界規模で増加傾向にあり、日本には約29万人(クローン病:約7万人、潰瘍性大腸炎:約22万人)いるとされています*1。10 代から20代の若年層に好発する特徴があります*2,*3

<参考文献>

IBDとはたらくプロジェクトについて
IBDとはたらくプロジェクトとは2019年5月、NPO法人IBDネットワークおよび難病専門の就労移行支援事業を行う株式会社ゼネラルパートナーズの協力のもと、ヤンセンが立ち上げたIBD疾患啓発活動です。IBD患者さんが、難病を抱えながらも自分らしくはたらくことを後押しするとともに、社会や企業への理解促進などを通じて働きやすい就労環境作りにも取り組みます。詳しくは、特設サイト(https://www.ibd-life.jp/project/hataraku/)をご覧ください。

1 はじめに―今回のイベントについて―

多様なアイデアと新たな視点で社会を捉えるために、「アイデアと触れ合う、渋谷の10日間。」として、カンファレンスや体験プログラムが開催される都市型イベント「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2021」では、連日、時代の変化をリードするさまざまな業界のトップランナーがトークセッションに登場しました。その一環として、「ワークシックバランス」という多様性のあり方について個人・行政・企業が集まり社会に広めていくためのアイデアを交換しました。

2 トークセッション

「ワークシックバランス」を提唱するヤンセンファーマ株式会社代表取締役の關口修平をはじめ、IBD患者である会社員の奥野真由さん、人材ビジネスを中心に事業を展開するPlus W株式会社代表取締役の櫻井稚子氏、そして長谷部健渋谷区長を登壇者に迎えた今回のトークセッション。
モデレーターには、SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2021エグゼクティブプロデューサーの金山淳吾氏を迎え、「ワークシックバランス」への理解を深め、どのように社会に広く浸透させていくかについて議論を交わしました。

2-1. ワークシックバランスの
発足背景

金山さん

金山さん まずは、製薬会社であるヤンセンファーマさんが「ワークシックバランス」というコンセプトを提唱するに至った経緯と背景をお聞かせください。

關口

關口 いち早く画期的な医薬品を患者さんにお届けすることが私たちの使命であり責任ですが、日常生活においても患者さんたちは様々な課題を抱えていらっしゃいます。そんな課題を解決するための取り組みの一つとして、IBD患者さんの働きやすい環境構築を目的に「IBDとはたらくプロジェクト」を立ち上げました。その一環として、病気があっても自分らしくはたらくことができる世の中の実現を目指す「ワークシックバランス」という考え方を提唱しています。

關口

2-2. IBD患者さんの就労における実態

ポイント

  • IBD患者さんの多くは自身の疾患を職場に告げるか否か悩んでいる。
  • 病気と仕事二者択一ではない社会を目指すためには、周囲の理解が不可欠。
金山さん

金山さん 「チームワークシックバランス」のメンバーであり、ご自身も患者である奥野さんにお聞きします。IBD患者さんの就労においてはどんな問題があるのでしょうか?

奥野さん

奥野さん 私がクローン病と診断されたのは10歳の頃でした。現在は寛解しているのですが、就職活動の時にその病名を打ち明けると難色を示されることもあり、そうでない場合でも不合格通知がくると、「病気のせいかな」と思い悩んでしまうこともありました。私の場合は職場や周囲の理解を得ることができていますが、職場がシフト制だったり、接客業の患者の方などは自分のタイミングでトイレに行ったり休むことが難しく、苦労をしているという声もよく聞きます。そのあたりはこれから越えていかなくてはならないハードルかなと感じます。

奥野さん
金山さん

金山さん そういった患者さんたちの現状を踏まえて、「ワークシックバランス」という取り組みが生まれたのですね。

關口

關口 IBDの患者数は全国に29万人*1。10代20代のこれからキャリアを築いていこうという人がとても多いんです*2,*3。社会としてはもちろん、経営者としても従業員が一人一人の自らの価値を最大限に伸ばせる環境を作ることはとても重要。病気と仕事二者択一ではない社会を目指し、その社会を反映した上で会社の繁栄を目指せることがベストだと思います。

關口
奥野さん

奥野さん あと、IBDの患者会で必ず出る議題が「自身の疾患をオープンにするか否か」という点です。差別されるのではないか、キャリアに影響するのではないか、仕事が減らされるのではないか、など、様々な葛藤があります。オープンにして働く場合は「こういったサポートがあればこんなことができる」など強みやスタンスを一緒に伝えることができたらと思いますが、それには、企業や周囲の同僚の方にも理解をしていただく必要があって…。

櫻井さん

櫻井さん 私も会社を経営する上で、病気だけでなく、介護や出産などの事情で働き方に悩まれている人たちを多く見てきました。そういったことを踏まえて社風を構築した経験もあります。少子高齢化社会の中で、疾患を持ちながらも働きたいと思うことはそれ自体が実はすごいことなんですよね。勤務形態や方法を変えながら、能力や意欲のある人たちが社会に貢献できる仕組みを作り、まずは企業自体が柔軟に変化しなくてはならないと感じます。

櫻井さん

<参考文献>

2-3. ワークシックバランスの実現
に向けて行政や企業ができること

ポイント

  • 患者さんだけでなく、共に働く社員がサポートできるような環境づくりに加え、病気の経験も強みにできるような企業文化の醸成を。
  • 企業と行政が連携し、情報発信と就労環境の構築を行うことで「ワークシックバランス」を社会全体に広めていくことが重要。
金山さん

金山さん 企業の課題が話題に出ましたが、渋谷区には54,000社の会社があり、多くの企業が集積していますよね。

長谷部区長

長谷部区長 渋谷区は今、「ちがいをちからに変えるまち」を未来像に掲げ、あらゆる観点からまちづくりを行なっています。“多様性を重んじる”という点においても、「ワークシックバランス」という取り組みはとても重要だと感じました。近年はIT企業やスタートアップ企業の進出も多く見られます。価値観がぶつかったり、調和したりしながら様々なブームやカルチャーが生まれてきた街だからこそ、それらのエネルギーを元本に、都市が一丸となって取り組んで行けたらと思います。

長谷部区長
金山さん

金山さん ヤンセンファーマさんは、実際に社員に「ワークシックバランス」について調査をしたそうですね。

關口

關口 多様性を尊重する就労環境を整備する一環でワークシックバランスに対する意識を調べたところ、回答した社員の多くが「ワークシックバランス」の重要性に共感し、理解を示しました。その一方で、「疾患を抱える人たちをどうサポートしたらいいか分からない」という声もあり、そういった情報をきちんと伝え、浸透させるためにはまだ課題があるとも感じました。

關口
金山さん

金山さん 奥野さん、患者さんの視点から企業や行政に期待する配慮やサポートとしてはどんなものが挙げられるでしょうか?

奥野さん

奥野さん 企業や行政の相談窓口を増やすことも必要ですが、職場に誰か1人でも自分の状況を理解し、味方になってくれる人がいると心強いです。制度を整えるだけでなく、病気の経験も強みにできるような社風の会社が増えるといいなと思います。また、病気を持ちながらも仕事がしたいという意欲のある人が就労先を選ぶときに手助けになるような情報があると嬉しいです。例えば、「ワークシックバランスに賛同しています」という企業が就職活動の段階で分かっていたりすると、若い患者さんたちも積極的に動きやすいのかなと思ったり…。

奥野さん
長谷部区長

長谷部区長 そうですね。同時に、患者さんたちが選択できるものから選ぶというよりも、本来は全ての会社が取り組むべきことだとも感じました。それができてないのが実態なのであれば、今後の大きな課題だと思います。

櫻井さん

櫻井さん 情報発信も就労環境の構築も企業と行政が連携をとり、一体になってやらなきゃいけないと思います。「ワークシックバランス」という考え方を一般に呼びかけると同時に、行政が企業に向かっても打つことでより広く広めていく。企業や行政がいち早く良き理解者にならなくてはならないと痛感しました。誰もが「これ普通だよね」と言える社会をみんなで作るべきだと思います。

櫻井さん

3 まとめ ―すべての人が自分らしく働くためには―

最後に、モデレーターの金山さんから投げかけられたのは、「すべての人が自分らしく働くためには、どんな社会であるべきか」という未来への展望でした。その中に、奥野さんのこんな一言がありました。
「○にも◎にもできる社会に」。
その裏には、疾患を抱えながら働く中で感じたこんな思いがありました。
「病気であることを×と考える人もいるけれど、病気になったことでの気づきや得たものも必ずある。それに気づけたことは○であり、そういった経験を元に社会を見つめ、自身がベストな形で働けるのであれば◎にだってなりえる。個人と企業や行政の双方が歩み寄っていくことでよりよい社会を築けたら」
奥野さんの「病気になったことで得るものがある」という言葉に感銘を受けた關口は、「ワークシックバランスは、自分が病気でなくても、周囲への理解を深めるためにも社会に必要な考え方です」と、社会への希望とともにその重要性を改めて伝える形でトークセッションを締めくくりました。

4登壇者プロフィール

登壇者プロフィール

長谷部 健 氏
長谷部 健(はせべ けん) 氏
渋谷区長
1972年渋谷区神宮前生まれ。 株式会社博報堂退社後、ゴミ問題に関するNPO法人green birdを設立。原宿・表参道から始まり全国60ヶ所以上でゴミのポイ捨てに関するプロモーション活動を実施。
2003年に渋谷区議会議員に初当選、3期12年務める。
2015年渋谷区長選挙に無所属で立候補し、当選。現在2期目。
1972年渋谷区神宮前生まれ。 株式会社博報堂退社後、ゴミ問題に関するNPO法人green birdを設立。原宿・表参道から始まり全国60ヶ所以上でゴミのポイ捨てに関するプロモーション活動を実施。
2003年に渋谷区議会議員に初当選、3期12年務める。
2015年渋谷区長選挙に無所属で立候補し、当選。現在2期目。
奥野 真由 氏
奥野 真由(おくの まゆ) 氏
チーム「ワークシックバランス」メンバー
会社員
1993年埼玉県生まれ。2004年10歳の時にクローン病を発症し、人生の半分以上を病気とともに生活している。2016年から埼玉IBD(患者会)に所属し、現在は副代表。若年同患者向けのイベントの企画等「内向きの活動」のほか、製薬会社・保健所等で講演や執筆等「外向きの活動」にも力を入れている。
1993年埼玉県生まれ。2004年10歳の時にクローン病を発症し、人生の半分以上を病気とともに生活している。2016年から埼玉IBD(患者会)に所属し、現在は副代表。若年同患者向けのイベントの企画等「内向きの活動」のほか、製薬会社・保健所等で講演や執筆等「外向きの活動」にも力を入れている。
關口 修平
關口 修平(せきぐち しゅうへい)
ヤンセンファーマ株式会社 代表取締役社長
米国ダートマス大学で学士号、米国デューク大学大学院で経営学修士号を取得。2004年、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社に入社。米国オーソ・バイオテック・プロダクツLP社とセントコア社のマーケティング部門を経て、2016年よりヤンセンファーマ株式会社免疫・感染症事業本部長を務める。2019年、ヤンセン台湾マネージング・ディレクターに就任。2021年より現職。
米国ダートマス大学で学士号、米国デューク大学大学院で経営学修士号を取得。2004年、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社に入社。米国オーソ・バイオテック・プロダクツLP社とセントコア社のマーケティング部門を経て、2016年よりヤンセンファーマ株式会社免疫・感染症事業本部長を務める。2019年、ヤンセン台湾マネージング・ディレクターに就任。2021年より現職。
金山 淳吾 氏
金山 淳吾 (かなやま じゅんご) 氏
SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2021 エグゼクティブプロデューサー
一般財団法人 渋谷区観光協会 理事
1978年生まれ。電通、OORONG-SHA、ap bankでの事業開発プロデューサーを経てクリエイティブアトリエTNZQを設立。「クライアントは社会課題」というスタンスから様々なクリエイター、デザイナー、アーティストと企業との共創で社会課題解決型のクリエイティブプロジェクトを推進。2016年より一般財団法人渋谷区観光協会の代表理事として渋谷区の観光戦略・事業を牽引し、渋谷区をステージに様々なプロジェクトをプロデュース。2017年、クリエイティブファームEVERY DAY IS THE DAYの設立メンバーとして参加。RDD適職で就労について発表を行う。副業として、IBD患者さんと家族のオンライン交流サイトGコミュニティの運営にも携わっている。
1978年生まれ。電通、OORONG-SHA、ap bankでの事業開発プロデューサーを経てクリエイティブアトリエTNZQを設立。「クライアントは社会課題」というスタンスから様々なクリエイター、デザイナー、アーティストと企業との共創で社会課題解決型のクリエイティブプロジェクトを推進。2016年より一般財団法人渋谷区観光協会の代表理事として渋谷区の観光戦略・事業を牽引し、渋谷区をステージに様々なプロジェクトをプロデュース。2017年、クリエイティブファームEVERY DAY IS THE DAYの設立メンバーとして参加。RDD適職で就労について発表を行う。副業として、IBD患者さんと家族のオンライン交流サイトGコミュニティの運営にも携わっている。
櫻井 稚子 氏
櫻井 稚子 (さくらい わかこ) 氏
Plus W株式会社 代表取締役社長
20代に日本の少子高齢化に伴う圧倒的な労働力不足や、国内の優秀な人材獲得が激化する兆候をいち早く見極め、グローバル人材派遣会社を起業。国際人材交流やノウハウを叩き込み、将来の展望を養う。 その後、国内に100店舗以上を構え、全国に4,500人超の従業員を抱える国内最大級の料理教室、株式会社ABC Cooking Studioへ入社。エリア最高責任者を経て人事部長に就任。人材育成や人事制度の構築、新卒・中途採用に携わる。2013年より代表取締役社長に就任し、中国・香港などアジア諸国への事業展開を推し進め、現地スタッフの採用や育成を指揮。 2017年より株式会社NTTドコモへ入社、パートナービジネス推進部アライアンス担当部長(現職)。その他、AI CROSS株式会社取締役、オイシックス・ラ・大地株式会社取締役を兼務。
20代に日本の少子高齢化に伴う圧倒的な労働力不足や、国内の優秀な人材獲得が激化する兆候をいち早く見極め、グローバル人材派遣会社を起業。国際人材交流やノウハウを叩き込み、将来の展望を養う。 その後、国内に100店舗以上を構え、全国に4,500人超の従業員を抱える国内最大級の料理教室、株式会社ABC Cooking Studioへ入社。エリア最高責任者を経て人事部長に就任。人材育成や人事制度の構築、新卒・中途採用に携わる。2013年より代表取締役社長に就任し、中国・香港などアジア諸国への事業展開を推し進め、現地スタッフの採用や育成を指揮。 2017年より株式会社NTTドコモへ入社、パートナービジネス推進部アライアンス担当部長(現職)。その他、AI CROSS株式会社取締役、オイシックス・ラ・大地株式会社取締役を兼務。