横浜市立大学附属市民総合医療センター 国崎玲子 先生 「安心して妊娠や出産をするために」

妊娠・出産

横浜市立大学附属市民総合医療センター 炎症性腸疾患(IBD)センター 准教授 国崎玲子 先生
横浜市立大学附属市民総合医療センター 炎症性腸疾患(IBD)センター 准教授 国崎玲子 先生
若いIBD患者さんのなかには、病気を抱えての妊娠・出産に不安をもっている女性患者さんや、男性不妊などの心配をしている男性患者さんも多いのではないでしょうか。多くのIBD患者さんの妊娠・出産に関わり、日本においてトップクラスの経験をもつ国崎先生に、IBDにおける妊娠・出産について気になることをお聞きしました。
  • IBDと妊娠
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  • 妊娠中の治療
  • 出産について
  • 出産後について
  • メッセージ
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IBDだと妊娠しにくくなるの?

IBDだと妊娠しにくくなるの?

ーIBDは妊娠のしやすさに影響しますか。

一般的には、 寛解期であれば妊娠のしやすさに病気自体が影響することはない といわれていますが、クローン病の活動期であると、女性ではやや妊娠しづらくなる可能性があります。一方、潰瘍性大腸炎の場合は寛解期でも活動期でも妊娠率は変わりません。また、IBD治療薬によって女性患者さんが不妊になることもありません。男性患者さんでも、精子が一時的に減少し男性不妊の一因となる薬もあるので、主治医に相談をしてください。他の薬に切り替えることによって2~3ヵ月で元に戻ります。

ーIBDは月経に影響しますか。

IBDにかかわらず、体調が悪いときには月経が不順になることがあります。ですから、一般的に IBDの活動期では月経不順や無月経になる可能性があります。 また、副腎皮質ホルモン(ステロイド)剤を使用しているとホルモンバランスが崩れ月経不順になることがありますが、薬を中止することにより正常に回復しますし、後遺症が残ることもありません。

ーIBDは子どもに遺伝しますか。

IBD患者さんの子どもがIBDである確率は一般の方よりもわずかに高くなりますが、 IBDでない確率のほうがはるかに高く、必ず子どもに遺伝するような「遺伝疾患」ではありません。

妊娠と薬の関係は?

妊娠と薬の関係は?

ー妊娠する前に薬を飲んでいた場合は、妊娠・出産をあきらめなければならないのでしょうか。

妊娠する前に飲んでいた薬が胎児に影響を及ぼすことは、ほとんどないと考えられています。 妊娠する前に薬を飲んでいたからといって妊娠・出産をあきらめる必要はありません。

ー今の治療薬を変えたいのですが。

治療薬を変更した場合には、病状が安定していることを確認するために数ヵ月ほどかかるので、妊娠・出産を希望する患者さんは早めに主治医に相談しましょう。当院では、薬を変更してから安定して妊娠ができるようになるまでに、およそ数ヵ月から半年を見込んでくださいとお話ししています。

ー流産したときに、病気や薬のせいじゃないのかと言われました。

IBDなどの病気がなくても、 一般に日本人における流産の割合は15%といわれ 1) 、みなさんが想像する以上に高率です。 流産の原因の多くが精子と卵子の遺伝子の組み合わせの問題であり、お母さんの病気や使用している薬の影響は非常に少ないといわれています。ですから、残念ながら流産が起こってしまった場合でも、病気や薬のせいではないかとご自分を責めるようなことはしないでください。IBD患者さんの場合は、当院では、妊娠する前には必ずパートナーやご家族に一般的な流産のリスクを伝えるようにお話ししています。また、希望があればパートナーやご家族に来院いただき、説明を聞いていただくこともあります。IBD患者さんの妊娠に関しては、厚生労働省の「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班」が発刊している冊子 2) がありますので、こちらも参考にすると良いでしょう。

ーこれまでにX線検査を受けていますが、妊娠・出産への影響はありますか。

通常のX線検査は最低限にすることが望まれます。ただし、通常のX線検査で受ける線量は、 不妊や胎児への影響が出る線量よりもはるかに少ない ため、検査を受けたとしても多くは問題になりません。

望ましい妊娠のタイミングとは?

望ましい妊娠のタイミングとは?

ーどれぐらい寛解が続いていれば、安全な妊娠・出産ができますか。

できれば6ヵ月、少なくとも3ヵ月ほど寛解維持した状態であれば、妊娠しても再燃が起こりにくい と考えられています 3) 。IBDが安定している時期に妊娠すると、お母さんも子どもも妊娠に関連する危険が増えることがなく、安全に妊娠・出産することができます。

ーIBDが寛解になる前に妊娠が判明したら、どうなりますか。

IBDの活動期に妊娠すると、早産や低出生体重児の確率が若干増加します 4) 。妊娠中にIBDが悪化すると、薬の効果が得られにくいことがあり、強力なIBD治療薬の投与が必要になったり、重度なケースになると大量出血や腸管穿孔などにより妊娠中の緊急手術が必要になったりすることもあります。まれではありますが、このように母子ともに危険にさらされる可能性がないともいえません。ですから、寛解を維持している時期に計画的に妊娠することがIBD患者さんにとって非常に大切です。

妊娠中の治療はどうなるの?

妊娠中の治療はどうなるの?

ー妊娠や出産により、IBDの症状が悪化することはありますか。

活動期の場合は、およそ1/3の患者さんは改善し、1/3は症状が横ばいに、1/3は悪化するといわれています 5, 6) 。つまり、2/3の患者さんは活動期のまま妊娠を継続することになります。特に潰瘍性大腸炎では悪化しやすいといわれていますが、クローン病患者さんでも悪化するケースがみられます。一方、 寛解期の妊娠であれば、妊娠を理由にIBDが悪化することはほとんどないと考えられています。

ー妊娠中は、IBDの治療はどうなりますか。薬を飲んでいても大丈夫ですか。

残念ながら、妊娠中におけるIBD治療薬の絶対的な安全性のデータはありませんが、近年、妊娠と授乳に対する薬の影響についてはデータが蓄積してきており、 IBD治療薬の多くは子どもの将来に明らかな悪影響を及ぼすことはない と考えられています。 薬を中断することでIBDの症状が悪化するほうが、かえって胎児への影響が大きい と考えられるため、基本的には妊娠中でも通常と同様の治療を継続します。医師も、妊娠中の患者さんには母体や胎児に影響がない薬を選んで治療を行いますので、妊娠中の再燃を防ぐためにも、自己判断で薬を中断せずに、最良と思われる方法を主治医と相談しましょう。

ー妊娠中の食事について、気をつけることはありますか。

ー妊娠中の食事について、気をつけることはありますか。

妊娠中のIBD患者さんが特別に気をつけるべき食事はありません。IBD患者さんに限らず、一般的な注意点として一部の魚の摂りすぎや、加熱が不十分な肉類などを避ける、また、過食・急激な体重増加が起こらないようにしてください。特に、妊娠中の水銀摂取量については、厚生労働省が発行したパンフレット 7) でも紹介されていますので、参考にしてください。
加えて診療上の経験から、クローン病で腸に狭窄がある患者さんが妊娠した場合は、腸が子宮で圧迫され腸閉塞になりやすいと感じています。そのため、狭窄がある患者さんには、消化の悪い食事は控えめにするように注意しています。

知っておきたい、出産のあれこれ

知っておきたい、出産のあれこれ

ー出産に当たって、IBD患者では特別に費用がかかることはありますか。

IBDだからといって特別な費用はかかりません。 分娩も一般と変わりなく、普通分娩で行えます。ただし、クローン病患者さんで活動性の痔ろうがある場合や、潰瘍性大腸炎の大腸全摘術後の場合は帝王切開が望ましい場合もありますので、分娩様式については主治医とよく相談し、産婦人科医にも伝えるようにしてください。

ー里帰り出産はできますか。

里帰り出産は可能です。寛解維持している場合は急に悪化することは少ないため、問題ありません。一方、活動期の患者さんでは妊娠12週ごろと分娩前後、出産直後はIBDが悪化しやすいため、 万が一の場合を考慮して、IBDを診察できる消化器科と産婦人科がそろっている総合病院が安心です。 いずれにしても、里帰り出産に当たっては、主治医ともよく相談をしてください。里帰り出産が決まったら、事前に出産先に連絡をしてもらったり、出産先への紹介状を用意してもらったりしてください。
また、大きな病院ではすぐに定員がいっぱいになってしまいますので、特に活動期の患者さんは早目に準備しましょう。

出産後について

出産後について

ー母乳育児を希望しています。薬を使用している場合は授乳はできないのでしょうか。

当院ではほぼ全員に母乳指導をしています。母乳で育てたほうが赤ちゃんの感染率や死亡率を低下させる 8) ため、薬を飲んでいるという理由では授乳を中止していません。もちろん、IBDの有無にかかわらず母乳が出ない方もいるので、その場合は母乳と人工乳(粉ミルク)の混合や人工乳のみになりますが、 母乳育児を希望する患者さんには「ぜひ母乳で育てましょう」と支援しています。

妊娠中と同様に、授乳中においても薬を飲むことのメリットとデメリットを考慮します。多くの薬において母乳中に移行する量は微量であるため、一般に、乳児に大きな影響を及ぼすことはないと考えられていますが、授乳中に配慮を要する薬もあり、産婦人科の主治医と相談することが必要です。まれに、薬に対して赤ちゃんがアレルギーを示す場合があります。その場合は赤ちゃんがおっぱいを飲みたがらなかったり、激しく泣いたり、下痢がひどくなったりすることがあるようです。気になる場合には産婦人科医や助産師に相談すると良いでしょう。

ー子育て中にIBDが再燃した場合、子育てができなくなったらどうしたらよいですか。

育児中は妊娠中よりも忙しく、睡眠不足やストレスが避けられないことから、 再燃してしまう患者さんも少なくありません。 子どもが生まれると病院から足が遠のく患者さんもいますが、出産後の1、2年間は大事な時期ですので、大変ですがしっかり病院に通ってほしいと思います。治療のタイミングが遅れたために入院することになってしまったら、子どもを育てる人がいなくなってしまいます。 通院や入院に備え、パートナーやご家族など、あらかじめ周囲に協力をお願いしておく と良いでしょう。また、病院のソーシャルワーカーや児童相談所などのサポートや公的支援も活用して、子育ての不安を1人で抱えないようにしましょう。

ー自分が治療を受けた薬によって、子どもに対して気をつけることはありますか。

妊娠中に生物学的製剤の投与を受けていた場合には、新生児の免疫力は一般より低い状態にあると考えられますので、 生後6ヵ月間はBCGと生ワクチンの接種を避けます。 生ワクチンは毒性を弱めた菌やウイルスを用いているため、免疫力の低い状態では生ワクチンに用いられている菌やウイルスによって病気を発症してしまう可能性があるからです。 小児科医には、必ず「妊娠中に生物学的製剤を使いました」と伝えてください。 その他の薬については過剰に心配する必要はありませんが、気になることがあれば主治医に相談すると良いでしょう。

これから妊娠、出産、子育てを希望するIBD患者さんへのメッセージ

これから妊娠、出産、子育てを希望するIBD患者さんへのメッセージ

IBDの領域では治療の選択肢が増えており、 昔に比べると安全に妊娠・出産ができるようになりました。 寛解を維持していれば、普通の人と同じように妊娠・出産に臨むことができます。しかし、きちんと寛解を維持するためには薬の使用は不可欠なので、 計画的に妊娠することが重要 です。 また、妊娠・出産は病気の有無にかかわらず、一定の確率で流産や早産などのリスクを伴うイベントです。妊娠・出産に臨むことは非常に大きなチャレンジで、それは1人では乗り越えられません。不測の場合に備え、あらかじめパートナーや両親など、周りの人に協力を求めておくことも大切です。

引用文献
1)日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会編:産婦人科診療ガイドライン 産科編2014, p119-124, 日本産科婦人科学会事務局, 2014
(http://www.jaog.or.jp/wp/wp-content/uploads/2017/01/img-31020320.pdf)(2017年7月26日アクセス)
2)難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班(鈴木斑):妊娠を迎える炎症性腸疾患患者さんへ 知っておきたい基礎知識Q&A(http://www.ibdjapan.org/patient/pdf/03.pdf)(2017年7月26日アクセス)
3)NPO法人日本炎症性腸疾患協会(CCFJ)編:クローン病の診療ガイド 第2版, p85, 文光堂, 2016
4)van der Woude CJ, et al.:J Crohns Colitis 9(2), 107-124, 2015
5)Miller JP:J R Soc Med 79(4), 221-225, 1986
6)Hashash JG, et al.:Gastroenterol Hepatol 11(2), 96–102, 2015
7)厚生労働省:これからママになるあなたへ お魚について知っておいてほしいこと
(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/suigin/dl/051102-2a.pdf)(2017年7月26日アクセス)
8)Moreland J, et al.:Am Fam Physician 61(7), 2093-2100, 2000

横浜市立大学附属市民総合医療センター 炎症性腸疾患(IBD)センター 准教授 国崎玲子 先生

国崎玲子(クニサキ レイコ)

横浜市立大学附属市民総合医療センター
炎症性腸疾患(IBD)センター 准教授

1993年に山口大学医学部を卒業後、横浜市立大学医学部第三内科学教室(現在の横浜市立大学消化器内科学教室)に入局。東京大学医学部代謝生理化学教室、東京大学医科学研究所 先端医療研究センターを経て、2000年より横浜市立大学附属市民総合医療センター難病医療センター、消化器病センター、IBDセンターにてIBD診療に従事。2009年より現職。医学博士。
身内に潰瘍性大腸炎患者がいたことから、IBD患者が良い医師・良い医療にめぐり合うことで、病気を乗り越えて社会復帰できることを実感。消化器科で診療に当たっているうちに、IBDを診ることができる医師がとても少ないことを憂慮し、IBD専門医となることを決意する。疾患合併妊娠を数多く取り扱う横浜市立大学附属市民総合医療センターにおいて、これまで約300名にのぼるIBD患者の妊娠・出産に関わる。今後はIBDの啓発を進めるとともに、IBD患者が更に安心して妊娠・出産に臨めるような環境を整えることを目標としている。

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