病気を抱えながら働くことを考えるD&Iフォーラム 現場体験から学ぶIBDと向き合いながらの仕事術 〜働き方改革全盛時代、IBD患者さんの就労を考えるIBD Day〜 イベントレポート病気を抱えながら働くことを考えるD&Iフォーラム 現場体験から学ぶIBDと向き合いながらの仕事術 〜働き方改革全盛時代、IBD患者さんの就労を考えるIBD Day〜 イベントレポート

2018年5月12日(土)東京・大手町にて、「現場体験から学ぶ IBDと向き合いながらの仕事術~働き方改革全盛時代、IBD患者さんの就労を考えるIBD Day~」がヤンセンファーマ株式会社主催のもと開催されました。近年、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)*の認識は浸透しつつありますが、IBDなどの病気を抱えながら働く方々の雇用や活躍推進についての議論は未だ十分ではない現状を踏まえ、病気を抱えながらも自分らしく働くことについて、患者・企業人事・医療関係者の3つの立場から意見交換が行われました。

*D&I(ダイバーシティ&インクルージョン):性差や国籍の違い、障がいの有無を超えて多様な背景、経験、考え方を持つ一人ひとりを社会や組織で受け入れ、違いを尊重しつつその違いを活かしていく取り組み

セッション1
D&Iの現状と課題:
治療を受けながらも
自分らしく働ける職場とは?

D&Iの現状と課題について、聖マリアンナ医科大学病院 ソーシャルワーカーの桑島規夫氏、ヤンセンファーマ株式会社 HRディレクターの米澤賢治氏、および同社免疫・感染症事業本部 関西・四国支店 大阪第1営業所の塩出洋和氏を登壇者として迎え、「治療を受けながら働く上での課題やどうすれば自分らしく働けるのか」といったテーマに対し、それぞれの視点から意見が述べられました。

企業(人事)の立場から

ヤンセンファーマ株式会社 HR ディレクター
米澤 賢治

企業(人事)の立場から

ヤンセンファーマ株式会社
HR ディレクター
米澤 賢治

組織が自分の居場所だと思ってもらえるような環境づくりを

 D&Iとは、一人ひとりが異なる存在として尊重され、アイデアを共有でき、互いのためにその文化を育むことであり、このインクルージョンを実現するために日々取り組んでいます(下図)。インクルージョンとは、多様性だけでなく、属している組織の中の一員であることに喜びを感じ、揺るぎない居場所をつくる、ということが重要とされています。
 ヤンセンファーマのD&Iに対する取り組みの一環として、「どのようにインクルーシブな環境をつくるか」についてマネージャー同士で定期的に議論をおこなっています。ここでキーワードとなるのが「心理的な安全」で、チームの前で自分の弱みを打ち明けることができるかということです。良いチームであれば弱みも含めた自分らしさを出すことができ、「見方を変えればその人の強みである」と考えることができます。さらに、社員には最近の出来事や今後のキャリアの話など、定期的に必ず上司と30分間話す機会を設けています。その際には、いかにマネージャーが各社員の自分らしさを出せる環境をつくることができるかが重要となります。このような取り組みにより、皆が働きやすい環境をつくることに全社で注力しています。
 企業戦略という点においても多様性は前提であり、その中で我々は個々人の違いに注目しつつ、それを尊重しながら受け入れる態勢をより高めていきたいと考えています。

企業(管理職)の立場から

ヤンセンファーマ株式会社 免疫・感染症事業本部
関西・四国支店 大阪第1営業所
塩出 洋和

企業(管理職)の立場から

ヤンセンファーマ株式会社
免疫・感染症事業本部
関西・四国支店 大阪第1営業所
塩出 洋和

D&I実践の第一歩は会話を増やすこと

 ヤンセンファーマではD&Iの浸透を目的に、マネージャーに対してインクルーシブリーダーシップを学ぶための研修が行われています。本研修では病気で療養中の部下、LGBTの部下、育児中の部下という3つのケーススタディを中心に、その対応についてトレーニングを行っています。なお、研修前にはEmpathy Map(右図)を用いて、このようなケースの部下がどういう思いで、何を不安に感じながら仕事をしているのか、チームでシェアしながら日頃の業務を続けていました。実際にこの研修に参加した後は①育児休暇から復帰した社員の受け入れ態勢がかなりスムーズであった、②部下の家族が病気にかかった際、そこに寄り添うことができたことが実感でき、研修が活かされたと感じました。
 今回の経験から、皆が幸せに働けるというのは「不安をゼロにするのではなく、不安を減らすこと」であり、そのためには今後もチームでの会話量を増やし、個々の背景をお互いに知っていくことが大事であることがわかりました。

ソーシャルワーカーの立場から

聖マリアンナ医科大学病院
ソーシャルワーカー
桑島 規夫

ソーシャルワーカーの立場から

聖マリアンナ医科大学病院
ソーシャルワーカー
桑島 規夫

「連携」するだけではなく「共創」していく時代に

 治療と仕事の両立支援がクローズアップされている近年、企業と病院が相互に連携し、患者であり労働者である方への支援が求められています。それを達成するためには、両立支援促進員、コーディネーターを医療機関などに配置していこうということが、今後の動きになってきています。
 その中で、ソーシャルワーカーが患者やその家族と関わっていく際に「課題の外在化」が重要であるといわれています。すなわち、ソーシャルワーカーが患者や家族の課題に取り組むのではなく、取り組むのはあくまでも患者や家族であり、ソーシャルワーカーは取り組みをサポートする存在であるべきだということです。この考えは地域社会においても同様で、何かの疾患がある人を「問題や課題がある人」と決めつけるのではなく、その人の課題を抽出してサポートするという考え方が大切なのです(下図)。
 従来、我々の活動では「連携」が重要であるとされてきましたが、現在は、ただ連携をするだけでなく、共に新しい環境をつくっていこうとする「共創」という概念が形成されつつあります。将来は、この概念を患者、企業、医療機関の間で実践していくことができるようにしていきたいと考えています。

セッション2
“IBDと向き合いながら働く”
を考える

セッション2では、IBD患者さん126名を対象とした就労に関するアンケートの実施結果が紹介されました。調査概要は以下の通りです。
調査手法 調査モニターおよびIBD LIFE閲覧者に依頼し、インターネットによる調査を実施
調査エリア 全国
調査対象 18~39歳の男女
就業経験のある方
クローン病または潰瘍性大腸炎と診断されたことがある方
調査対象者数 126名
男性 女性 合計
20代 30代 20代 30代
患者数(名) 8 54 15 49 126
患者数(名)
男性 20代 8
30代 54
女性 20代 15
30代 49
合計 126
調査実施時期 2018年3月19日~4月1日
調査内容
  1. 1.病気が原因で就職・転職活動で苦労したこと、困ったこと
  2. 2.職場の人に患っていることを伝えているか/伝えている人
  3. 3.仕事中に病気が原因で困ったこと
  4. 4.働きやすいと思う仕事ランキング
アンケート調査の結果について、医師および患者さんである以下3名の経験談も交えながら「自分らしく働く」についての意見交換がなされました。
登壇者
  • 北里大学北里研究所病院
    炎症性腸疾患先進
    治療センター
    副センター長
    小林 拓先生
  • 一般企業 人事担当
    みえIBD患者の会
    副会長
    しんちゃん
  • Webマーケティング会社勤務
    コピーライター
    IBD患者ブロガー
    fummy

Q1 病気が原因で就職・転職活動で苦労したこと、困ったこと

A1

アンケートの結果、「就職・転職先に病気のことを伝えるべきか悩んだ」が最も多く、また、クローン病の患者さんほど「なかなか就職先が決まらなかった」「病気のことを伝えたら、採用してもらえなかった」「一般枠で就職するか、障がい者枠で就職するか悩んだ」などが多いという結果でした(下図)。具体的な悩みの内容は下図の通りです。

この結果に対し、fummy氏としんちゃん氏は「病気を第一に考えた生活にするべきか、多少負担をかけても自分の目標にチャレンジするべきかについて非常に悩んだ(fummy氏)」、「当初は一般枠で就職活動を始めたが、ある企業の面接で転勤の希望を聞かれた際、病気を隠していたことから通院のために転勤を断りたい旨を伝えられなかったことがあった。この経験から本心で面接を受けられないことが後ろめたく感じ、結局は障がい者専用の就職サイトを利用して就職した(しんちゃん氏)」と自身の就職活動の経験を語りました。小林先生は、「可能な限り 事前に理解をしてもらって就職活動を進めることが理想 ただ、IBDの治療はとても進歩しているので、日常生活に全く影響なく生活している方までもが、聞かれてもいないのに必ず事前に伝えなければならない、と考える必要は必ずしもないのかもしれない」との見解を示しました。

Q2 職場で病気のことを伝えているか

A2

アンケートの結果、「伝えている人」は約70%に上り、最も多いのは「直属の上司」に伝えているケース、次いで「一緒に仕事をしている同僚」であり、人事担当者に伝えているケースは約20%にすぎませんでした(下図)。伝えてよかったことは下図の通りです。

この結果に対し、fummy氏は「通院のための休暇申請、お酒の席、業務中にトイレに立つ回数、業務内容の調整についての理解が得やすいことや、入院による長期休職となってしまった際のトラブル回避など、病気について伝えた方がメリットは多い」と、これまでの社会人生活で感じたことを紹介しました。また、しんちゃん氏は「就職活動の際は、自分の病気に対する質疑対応マニュアルを作成して面接時の質疑応答に活用した。また、入社後は現在の治療状況や今後の治療方針、万が一入院した場合にどのくらいの期間で復帰可能か、など自分の病気についてA4用紙2枚分にまとめた資料を職場の人全員に配り、病気への理解を仰いだ」と、自身が実際に行ったアイデアを披露しました。小林先生は実際の患者さんの体験談として、「勇気を出して上司に伝えたところ、他にも同じ病気の方が何人か職場にいることがわかり、スムーズに理解を得られた」という事例を紹介しました。また反対に、病気のことを伝えずにいたために、治療内容に支障が出てしまい、短時間の通院で済むはずが長期の入院になり、そこで結局説明が必要になった事例も紹介し、最善の治療を行う上でも職場での理解を得ることのメリットは大きいとの意見を述べました。

Q3 仕事中に病気が原因で困ったこと

A3

アンケートの結果、「困ったことはない」という方が全体の3分の1以上を占めました。しかし、過半数以上で「通勤中にお腹が痛くなり、遅刻してしまった」「治療のために会社を休みがちになり、周りに迷惑をかけてしまった」など、困った経験がありました(下図)。

この結果に対し、しんちゃん氏は「僕は入社初日に倒れ、その後半年間入院した。この時は、本当に後ろめたい気持ちでいっぱいだった。入社して8年間経ったが、職場の方には本当にサポートして頂いており、今の僕があるのは職場の方の力添えのお陰だと本当に感謝している」と周囲のサポートの重要性を強調しました。fummy氏は、「この回答を見て驚いた。病気のことを伝えたらきちんと対応してもらえることの方が多かった。心温かい方たちは必ずいるので、悲観する必要はない」と、これまでの経験からポジティブな見解を述べました。小林先生は自身の経験を踏まえて、「 主治医1人が完璧に全てのことに対処しようと思っても、治療も私生活の悩みも全部支えるのは難しい 。普段皆さんが仕事や恋愛などの悩みを誰かに相談するとき、内容ごとに相談する相手が違うように、医療においてもそれぞれ違う専門を持った医療従事者が協力し、サポートをする仕組みが大切だ」と、チーム医療の重要性を訴えました(下図)。

Q4 働きやすいと思う仕事内容

A4

アンケートの結果、1位「一般事務職・営業アシスタント」、2位「公務員・団体職員」、3位「クリエイター」に続き、「総務・人事・法務」「財務・会計・経理」などがランクインしました(下図)。
またその理由について、図に示すように、自身の体調に合わせて働きたいという患者の想いが読み取れました。(下図

この結果に対し、fummy氏は「出版社に勤めた経験があるが、激務なイメージとは裏腹に、定時に終業し、かつ土日休みで体に負担がなく働けた。この経験から、職種というより会社の見極めも大事なポイントと考えている。今はWebマーケティング会社で働いており、仕事に慣れないうちは残業も多かったが、僕は文章を書くことがとても好きなので、肉体的な負担はあるのかもしれないが、楽しく乗り越えることができている。病気を抱えているからといってその人が持っている才能や魅力は変わらない。体調重視の仕事選びもいいが、自分の才能にチャレンジしたいのであれば、どんどんしていくと良い」と就労者に対してエールを送りました。
その意見に対してしんちゃん氏も「僕の周りのIBD仲間には看護師や出版業など、本当に多種多様な仕事をしている方が多いので、やりたいことがあるならば、そこに病気はあまり関係ないと考えている」とfummy氏の意見に同意しました。さらに、「産休・育休制度がしっかり機能していて女性が活躍できている企業は、突発的な休みに対応できる環境が整っている」と会社を選ぶ上でのチェックポイントも紹介しました。小林先生も2人の意見にうなずき、「医学的にも、IBDだからといってできないと決まってしまうことは一切ない。やりたいことを実現するということこそが、人生、病気と共存しながら生きていく中で一番大事なエネルギーになる」と2人の意見を後押ししました。

登壇者3名からの
IBD患者さんへのメッセージ

Webマーケティング会社勤務
コピーライター
IBD患者ブロガー
fummy

 僕は12年前に潰瘍性大腸炎にかかりました。診断されたのはちょうど今と同じ5月で、そのときは「難病」という言葉にすごくインパクトを受けて、これからどうなってしまうのだろうと、すごく心配になった記憶があります。最初の4年ぐらいは体調も悪く、実際に4年間ぐらいはほとんど寛解しませんでした。その間、直腸炎型、左側大腸炎型といった病状でしたが、あるときに一気に全大腸炎型に進行し、入院を余儀なくされました。しかし、そこからは徐々に症状も良くなり、今はこうして体調を崩すこともなく、いい意味で「普通の人生」を過ごせています。仕事の方も前向きに捉えて頑張っていけているというのは、今、非常に幸せなことだと思っています。ですから皆さんには、もしこれから就職活動または転職活動される方がいたら、自分のやりたいことに向かってぜひチャレンジしてほしいと思っています。
 潰瘍性大腸炎だから、クローン病だからといって、自分の魅力や才能が失われるわけではありません。自分の才能をどう活かしていくかというところに重きを置いてこれからの人生に取り組んでいけば、必ず豊かな人生になっていくと思います。僕も頑張っていくので、皆さんも一緒に頑張っていきましょう。

一般企業人事担当
みえIBD患者の会
副会長
しんちゃん

 僕は17歳の頃にクローン病になりまして、今年で13年目になります。クローン病という病名を聞いてネットで調べまして、そこに書いてある情報を見て、深く落ち込んだことをよく覚えています。
 それから、現在は30歳になりました。現在と昔を比べると、本当に治療方法や薬が増えました。我々IBD患者を取り巻く環境は劇的に変化しています。ですから、今、IBDと診断された人がいたとして、それは17歳のときの僕とは背景が全く異なります。17歳の僕は劇症化も経験し、手術を3回も行い、小腸も切除しました。しかし、今IBDと診断された方が僕と同じ道を辿るかというと、そうは思いません。
 現在、ネットで情報を調べようとすると、疾患の情報がしっかりとまとめているサイトが数多くあります。ですが、なかには「昔は大変だった」というような、古い情報のみが掲載されているサイトも少なくありません。このような情報に触れてしまうと、IBDは怖い病気なのだなという印象を受けてしまうでしょう。確かに、治療法や治療薬が合わなくて、症状のコントロールに苦労している方もいます。ただ、全体的には明るい兆しが見えているというのは事実なので、fummyさんの言うように、クローン病だから、潰瘍性大腸炎だからといって、何かを諦める必要はないのではないかなと思うのです。
 僕は患者会の副会長を務めていますが、先ほどのチーム医療の輪の中に患者会も積極的に入っていけるように、これからも頑張っていきたいと思います。

北里大学北里研究所病院
炎症性腸疾患先進治療センター
副センター長
小林 拓先生

 炎症性腸疾患になってしまったということは、喜ぶことではないかもしれないし、恐らく残念なことと捉えるのは仕方がないのではないかと思います。ただ、現在は医療が進歩し、チーム医療などの医療に対する考え方も変わってきています。皆さんがこの病気と生きていく中で、この病気になっていなかったとして用意されていたはずの人生を達成するために、もしくはこの病気と出会ったことによって、さらにより良い人生を達成できるために僕たちはここにいるのですよと、いつも患者さんにお伝えしています。
 炎症性腸疾患もダイバーシティ(多様性)の一つであって、背が高かったり低かったり、目が良かったり悪かったり、いろいろな方がいらっしゃるのと同じことだと思っています。今までの人生、この病気と既に何年も歩んできた方、今までにつらい思いをされた方もいらっしゃると思いますが、これから用意されている人生は、今までに比べても必ず素晴らしいものになると思っていただきたいです。
 医師だけではなく、ソーシャルワーカー等の医療スタッフや企業、そして社会全体が必ずサポートしてくれますので、そのサポートを受けながらぜひ夢を実現させて欲しいです。

安達了一選手からの
応援メッセージ

本イベントでは、オリックス・バファローズの安達了一選手の、IBD患者さんへ向けた応援ビデオメッセージも流されました。以下リンクよりご視聴いただけます。